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慢性膵炎(まんせいすいえん)

どんな病気?

  • 膵臓(すいぞう)には血糖値を下げるホルモン(インスリン)を分泌したり、アミラーゼなどの消化酵素を分泌するなどの役割があります
  • 慢性膵炎は、慢性的な炎症や膵臓の線維化によって上に挙げたような正常な機能が失われ、糖尿病や消化不良などの様々な症状を引き起こす病気です
    また膵がんの原因になることもあります。

原因は?

  • アルコール性
  • 非アルコール性
  • 喫煙

2011年の調査によると慢性膵炎の主な原因はアルコールです(約70%)。
アルコール以外の原因としては、特発性(医学的に原因不明の場合「特発性」と呼びます)が約20%、急性膵炎が約2%、胆石遺伝自己免疫性がそれぞれ約1%となっていました。
アルコール量換算で一日20g以上を摂取し続けると(つまりアルコール度数5%なら400ml)慢性膵炎の発症リスクが高くなり、60g(5%なら1200ml)以上摂取し続けるとリスクはさらに急上昇します。
特に女性では男性に比べてより少量で発症しやすいことが分かっており注意する必要があります。
また喫煙は慢性膵炎の発症を促すのみならず、膵がんの原因ともなることが知られています。

症状は?

ある調査によると慢性膵炎患者さんの約60%は腹痛や背部痛が出現しているようです。
この痛みは膵管の中にできる膵石によるものも多く、治療も簡単ではないため難治性です。
時には膵石によって膵液がうっ滞することで急性膵炎のような急激な炎症を起こすこともあります。

慢性膵炎では膵臓から分泌される血糖降下ホルモンである「インスリン」も出にくくなるため高血糖になりやすく糖尿病を発症することがあります
一方で血糖値を上昇させる役割のあるホルモン「グルカゴン」も出にくくなるため通常よりも複雑な糖尿病となってしまいます。
また膵臓には上で述べたように消化酵素を分泌するという重要な役割も備わっています。これが障害されると消化不良を起こし、慢性的な下痢などを起こしやすくなります

その他にも重要な合併症として胆管(たんかん)閉塞を起こすことがあります。
膵臓の病気なのになぜ胆管?と思われるかもしれません。実は胆管の終点は膵臓の中を通過します。
ここが慢性膵炎による炎症でむくむことで胆管閉塞を起こし、胆汁の流れが障害されるのです。
胆汁の流れが滞ると急性胆管炎を発症しやすくなります。

最後に忘れてはいけないのは膵がんの発症です。
慢性膵炎から膵がんが発症することも多く、厳重な経過観察が必要です。

どんな検査があるの?

  1. 膵酵素測定(血液検査)
  2. 腹部レントゲン検査
  3. 腹部超音波検査(エコー)
  4. CT、MRI
  5. 超音波内視鏡
  6. 内視鏡的逆行性膵管胆管造影(ERCP)

1.膵酵素測定

一番簡単な検査が血液や尿で膵酵素の値を調べることです。
血中膵酵素(アミラーゼ、リパーゼなど)が正常よりも上昇または減少していたり、尿中膵酵素(アミラーゼ)が上昇していたりすると慢性膵炎を疑う一つの理由となります。

2.腹部レントゲン検査

慢性膵炎では膵管内に膵石が出来ます。
腹部レントゲンで膵石を確認できれば慢性膵炎の可能性が高くなります

3.腹部超音波検査(エコー)

超音波検査でも膵石を確認することが出来ます
他にも膵管拡張など慢性膵炎に特徴的な所見を確認できる場合があります
ただし慢性膵炎では膵臓が萎縮し小さく細くなっていることも多く、充分な観察が不可能な場合も多々あります。

4.CT,MRI

CTは萎縮した膵臓や、膵臓内の膵石、拡張した膵管などを確認しやすい検査であり非常に有用です
膵がんの合併がないか調べる目的でもよく行われます。
MRIではCTのように被ばくすることなく、不規則に拡張した特徴的な膵管をより明瞭に映し出すことが可能です
CTほどではありませんが膵石もある程度診断することが出来ます。

5.超音波内視鏡検査

超音波内視鏡は胃カメラと同じ形をしており、口から挿入する内視鏡です。
一般的な内視鏡よりも太いため鎮静剤を使って眠った状態で通常は行われます。
この検査では膵石や不規則に拡張した膵管に加え、膵実質をより詳細に観察することが出来ます
それによってより早期に慢性膵炎を発見することが可能と言われています。

6.内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)

通常は入院して行われる内視鏡検査です。
内視鏡を使って膵液の出口(十二指腸乳頭)からカテーテルで造影剤を流し込み膵管の異常を確認します。
現代ではMRIなどで異常な膵管を明瞭に確認することが可能となったため慢性膵炎の診断目的にはあまり行われません。
ERCPを行うのは主に膵がんの可能性がある場合に細胞検査をするためです
他にも膵石治療や胆管閉塞の治療目的でも行われます。

治療は?

  1. 生活指導
  2. 鎮痛剤
  3. 膵酵素製剤の補充
  4. 糖尿病治療
  5. 内視鏡治療
  6. 外科的治療

1.生活指導

一番重要なことは断酒です。断酒とは一生禁酒することです。
断酒に成功すると慢性膵炎の進行を抑え、腹痛に苦しむことも少なくなり、死亡率も低下することが分かっています。
また禁煙をすることで慢性膵炎になる確率が下がること、膵石が出来にくくなると言われています。

食事について。
これは慢性膵炎の進行具合によっても異なりますが、一般的に腹痛予防には低脂肪食が有効です
ただし長期になってしまうと栄養不足になるので低脂肪食は短期間に留める必要があります。

2.鎮痛剤

慢性膵炎は頑固な腹痛に苦しむことの多い病気です。
逆に言いますと腹痛を克服できれば慢性膵炎患者さんの生活の質を大幅に改善することが期待できます。
まずは一般的な鎮痛剤(ロキソニンやボルタレンといったNSAIDsと呼ばれる種類)を使用しますが効果が不十分な場合も多くのが実情です。
必要に応じて弱オピオイドであるトラマドールや医療用麻薬であるモルヒネオキシコドンなどの内服を検討することになります。
また、たんぱく分解酵素阻害薬の内服も一定の効果があると言われています。

3.膵酵素製剤の補充

慢性膵炎では膵酵素の分泌が低下しており下痢や消化吸収不良が起きやすくなります。
膵酵素を内服で補充することによって、下痢やおなかの張りの解消、消化吸収不良で減少していた体重の増加を期待することが出来ます

4.糖尿病治療

慢性膵炎に合併した糖尿病では消化吸収障害によって低血糖を起こしやすくなっています。
よって一般的な糖尿病のようなカロリー制限などは低血糖に結び付き危険な可能性があり個別に対応する必要があります
ほか、血糖降下薬やインスリン治療を行う際にも低血糖に注意しながら調整する必要があります。

5.内視鏡治療

慢性膵炎では膵管が狭くなったり、膵管に膵石がはまり込むことによって痛みを生じることがあります。
そういった膵管の閉塞に伴った痛みに対して内視鏡治療が行われることがあります
具体的には膵管の出口を切開して広げる、膵石除去、ステント留置などが行われます。
内視鏡治療ではありませんが、内視鏡だけでは膵石が除去しきれない場合には体外衝撃波結石破砕術(ESWL)を併用します。
これは特殊な機械の台の上に横になり体外から膵石を狙って衝撃波を繰り返し当てることで結石を割る治療法です。

6.外科的治療

上記のような内科的治療でも痛みのコントロールが出来ない場合などに外科手術が検討されます
痛みの原因となっている膵液のうっ滞を解消する目的で膵管を広く切開、開放して小腸と広い範囲で直接吻合するなどの術式が行われています。

参考:慢性膵炎診療ガイドライン2021(改訂第3版)

この記事を執筆した人
金沢憲由

日本消化器病学会 消化器病専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・指導医
日本肝臓学会 肝臓専門医
日本内科学会 総合内科専門医
日本消化管学会 胃腸科専門医
難病指定医
秋田大学出身
月間400件以上の内視鏡検査を行なう。 丁寧でわかりやすい医療の提供を志す。 人間ドックによる予防医療にも注力している。

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