クローン病
どんな病気?
- 口から肛門まで、食事の通り道どこにでも潰瘍などの病変を生じうる原因不明の慢性的な炎症性疾患です。
- どの部位にも生じますが、小腸や大腸、肛門によく発生します。
- 炎症が小腸だけに起きている「小腸型」、大腸だけに生じる「大腸型」、その両方に生じる「小腸・大腸炎型」などに分類されます。
- 最初に報告したのがクローン医師であったことから「クローン病」と呼ばれます。
- 厚生省が行った調査では2014年時点で7万人以上の患者さんがいると推測されています。(現在はもっと多いはずです)
- 10代後半~30代前半に好発することが知られています。
原因は?
- まだはっきりとは分かっていません。
- 何らかの遺伝的要因と食事などの環境要因が組み合わさり腸の免疫が障害されることで発症すると考えられています。
- 実際に血縁者間や家族内での発症率が高いことが知られています。
- 喫煙はクローン病発症のリスク因子とされています。
症状は?
- 下痢、腹痛、体重減少、発熱などがよく見られる症状です。自然と良くなったり悪くなったりを繰り返しながら進行し、治療が効きにくくなることで日常生活が損なわれることも少なくありません。
- ときに腸閉塞、穿孔(せんこう・穴が開くこと)、大出血を起こすことがあります。
- 難治性の痔を合併しやすいことも特徴です。
- 消化管以外にも合併症を起こすことがあります。
- 代表的なものが結節性紅斑(けっせつせいこうはん)や壊疽性膿皮症(えそせいのうひしょう)と呼ばれる皮膚炎、および関節炎です。
どんな検査があるの?
上で述べたような自覚症状がある場合に血液検査や便検査、大腸カメラなどを行います。これらの検査で他の病気がないか確認しつつ、典型例では、大腸カメラで小腸と大腸の境界部分に特徴的な形をした潰瘍が発見されることでクローン病と確定診断することが可能です。その際の組織検査で「非乾酪性類上皮細胞肉芽腫(ひかんらくせい るいじょうひさいぼうせい にくげしゅ)」が検出されると診断はより強固なものになります。
クローン病であれば全消化管に病変を生じる可能性があるため「胃カメラ」や「小腸造影検査」も行う場合があります。これらの検査でもクローン病に特徴的な異常所見が見られることがあります。
場合によっては小腸カメラや小腸カプセル内視鏡によって直接小腸を観察することも検討します。
CTやMRIではおなかの中に(腸炎から波及した)膿が溜まっていないか、瘻孔(ろうこう)と言って炎症を起こした腸と腸同士が開通していないかなどを調べることが可能です。
定期的な経過観察においては血液検査や自覚症状などからスコアリング(CDAIスコア)し重症度をモニタリングします。
治療は?
- クローン病は良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、その経過中に腸が狭くなったり穴が開いたり、膿を形成したりなどして複数回の腸切除が必要になることが多い病気です。
- そのため治療目標として自覚症状の改善のみではなく長期的な目線で手術を避けるべく消化管粘膜の炎症をしっかり抑え込むことが肝要です。
- 軽症では主にステロイドカプセル製剤(ゼンタコートR)や5-ASA製剤などの内服薬を使用します。
5-ASA製剤
主に軽症患者さんに使用されます。まれに5-ASA不耐症と呼ばれるアレルギー反応を起こす方がいます。腹痛・発熱・関節痛・血便などあたかもクローン病が悪化したかのような症状を起こすので、不耐症かどうかは慎重に判断する必要があります。アレルギー検査を行う場合がありますが必ずしも正確な検査結果が出ないことがあります。(新型コロナPCRでよく報道されたような偽陰性、偽陽性などの話です。)
栄養療法
可能であれば栄養療法を併用します。これは腸に負担の少ない特殊な栄養剤であり副作用が少ないという特徴がありますが、ある程度の量を飲み続けることが(飽きてしまうなどして)次第に難しくなってくることも多いです。
副腎皮質ステロイド薬
強力な抗炎症作用があります。初期治療(寛解導入)効果は高いのですが長期的になると副作用(糖尿病、骨粗しょう症、免疫低下など)が問題となりますので良くなったら徐々に中止していきます。
免疫調整薬
体内の異常な免疫反応を抑え、調整します。脱毛、膵炎、白血球減少などの副作用が問題となることがありますが特殊な血液検査(保険適応の遺伝子検査)で、副作用の出やすい方を事前に調べることが可能です。
生物学的製剤
体内の異常な免疫反応の連鎖をピンポイントで抑え込みます。作用メカニズムの異なる種々の薬剤がどんどん開発されており一昔前よりも治療選択肢が大幅に増えました。
血球成分除去療法
透析と同じような仕組みで過剰な炎症細胞を取り除きます。おおよそ週2回×5週間(計10回)がワンセットの治療です。
手術
腸に穴が開く(穿孔・せんこう)、大量出血、腸閉塞、お腹に膿がたまる(膿瘍、のうよう)、難治性の痔などを合併した際には(緊急)手術が必要になります。
病気のこと、日常生活で何かご不安なことがあれば当院に一度ご相談ください。
参考:炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2020(改訂第2版)
潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針 (令和3年度改訂版)