食道アカラシア
どんな病気?
- 食道から胃の移行部分の開きが悪くなり、食物が通過しにくくなる疾患です。
- 「アカラシア」とは聞きなれないネーミングだと思います。語源はラテン語で「ア=?ない」、「カラシア=弛緩」、ア・カラシアつまり弛緩しないというニュアンスです。
- 10万人中10人程度がこの疾患にかかっていると言われています。
- 男女差はなく、30?60歳代に多く発症します。
食道は胃腸と同じように食べ物を奥に奥に送り込むためにみずからの筋肉を動かしています(ぜん動と呼びます)。
食道アカラシアではその最後の部分、食道胃接合部(下部食道括約筋)の筋肉の制御に異常が発生し、異常に締め付けられ、飲み込んだものが胃に落ちていかず食道に貯留してしまうのです。
原因は?
食道アカラシアでは筋肉を動かす神経(アウエルバッハ神経叢)の消失が見られます。神経が消失する原因はウイルス感染、自己免疫、遺伝、消化管ホルモンなどの可能性が報告されていますが、いまだにはっきりとしたことは判っていません。
症状は?
- 食物のつかえ
- 胸やけ
- 吐き気、嘔吐
- 胸痛、背部痛
- 発がん(食道がん)
食道の通りが悪くなることに伴い食事がつかえ、胸やけが起きます。さらに悪化すると吐き気や嘔吐を繰り返し、充分な栄養を摂取することが出来なくなります。
食物が食道に詰まると胸痛や背部痛が出現することもあります。
そして何よりも怖い合併症は食道がんの発症です。食物が慢性的に食道内に停滞すると慢性的な炎症が起きることで発がんしやすい下地が出来上がるのです。しかも食道がんと食道アカラシアの症状は重なる部分も多いため、胃カメラなどでの定期検査をしなければ発見が遅れがちになるという問題も存在します。
どんな検査があるの?
食道透視検査(バリウム検査)*当院での扱いはございません
典型例では、拡張した食道にバリウムが停滞し、同時に狭くなった食道胃接合部が確認できます。
胃カメラ
胃カメラでも拡張した食道と、狭くなった食道胃接合部(下部食道)を観察することが出来ます。食道がんで狭くなった場合は内視鏡も通らないのに対して、アカラシアでは通過することが可能という違いがあります。
食道内圧検査*当院での扱いはございません
食道アカラシアの最終的な診断には食道内圧検査が必須とも言えます。
本症に特徴的な内圧パターン(下部食道の圧が常に高い、かつものを飲み込んでも圧が下がらず高いまま)を示すことで診断することが可能となります。
超音波内視鏡検査*当院での扱いはございません
内視鏡を使って食道の中から行う超音波検査です。超音波は食道の壁の中を映し出すことが可能です。この性質を用いることで、アカラシアで肥厚した下部食道の筋層を確認することが可能です。
治療は?
- 薬物療法
- 内視鏡治療
- 外科治療
薬物療法
下部食道括約筋の締め付け圧を低下させる薬剤として「カルシウム拮抗薬」や「亜硝酸薬」が用いられることがあります。いずれも血管を拡張させることで降圧剤や狭心症治療薬として使われている薬剤です。
括約筋の締め付けを緩める作用もあり、アカラシアにも使用されることがありますが効果は限定的であり、症状改善効果は乏しいと言われています。
内視鏡治療
バルーン拡張術
専用の頑丈な風船が膨張する圧を利用して、筋層を強制的に断裂させ狭くなった下部食道を拡げます。一回の治療で半永久的な治療効果が得られる場合も多いとされています。
一方で、合併症として食道が破裂(穿孔せんこう)する場合があるため慎重な判断が求められます。
経口内視鏡的筋層切開術(POEM)
近年急激に広まっている治療法です。内視鏡を用いて肥厚した下部食道括約筋を切開します。従来は外科手術が必要とされていた領域ですが内視鏡でも可能となりました。治療効果が高いことが特徴で、ガイドラインによると1年後まで治療効果が続いていた割合が98%、3年後でも約90%とのことです。さらに長期的な治療効果はこれから明らかになってくると思います。
一方で、下部食道が緩みすぎて胃酸が逆流しやすくなり、逆流性食道炎を起こしやすくなるという問題点もあります。
外科治療
外科治療としては腹腔鏡下ヘラー・ドール手術と言って締め付けている筋肉を腹腔鏡で外側から切開して緩め、かつ逆流性食道炎防止目的に胃の入り口部分を下部食道に巻き付けるという方法が有名です。長期的にも治療効果が非常に良好であることが分かっています。
参考:POEM診療ガイドライン
食道アカラシア 消化器内視鏡Vol.31 No.4 2019 ,562-567