脂肪肝
2024.6.9 更新
どんな病気?
- 脂肪肝(脂肪性肝疾患)にはアルコール性と代謝異常に関連したものがあります。
このページでは主に後者(代謝関連脂肪性肝疾患 Metabolic dysfunction Associated Steatotic Liver Disease, MASLD)について解説します。 - MASLDは「マッスルディー」と発音します。
- 脂肪肝は肝臓に中性脂肪が沈着した状態のことを指します。
- エネルギーを摂取しすぎると、余分なエネルギーが中性脂肪に変換され、肝臓に蓄積します。
- 蓄積した脂肪が肝臓の5%以上を占めるようになると脂肪肝とされます。
- そもそも男性の30~40%、女性の10~20%程度がMASLDを持っていると言われます。
- MASLDの中には、炎症を伴い肝硬変や肝臓がんに進展する「代謝関連脂肪肝炎(Metabolic dysfunction Associated SteatoHepatitis, MASH)」(マッシュ)が含まれます。
- 無症状であり、過去はそれほど有害ではないとされてきた時代もあるMASLDですが、実にその約20%がMASHであると推定されています。つまり脂肪肝をもつ一部の患者さんは、肝臓がんの重大なリスクを抱えていることになります。
原因は?
アルコール以外の原因は、肥満やメタボリックシンドローム、糖尿病、脂質異常症、高血圧症などのいわゆる生活習慣病が挙げられます。
その他にも腸内細菌叢の変化が脂肪肝の進展に影響を及ぼしている可能性や、サルコペニアと呼ばれる加齢に伴う筋肉量の低下や筋力の減少が脂肪肝に関わっている可能性などが報告されています。
そして特定の遺伝子も脂肪肝の発症と進行に重大な影響を及ぼすことが分かっています。
症状は?
この記事を読んでいる多くの方はご存じかも知れませんが、脂肪肝と診断を受けた多くの方は自覚症状はありません。
偶然に健診などで肝障害を指摘されて受診することがほとんどです。
自覚症状があるとしても倦怠感や(肥満による睡眠時無呼吸症候群に伴う)睡眠障害など、他の病気と区別がつかない場面もよく見かけます。
むしろ無症状のうちに進行してしまうのがこの病気の怖い所です。
まれではありますが黄だんが出現するほど病気が進行してから初めて受診する方もおります。
黄だんもその症状の一つですが、肝硬変まで進展してしまうと全身のむくみ、腹水、意識障害(肝性脳症と呼びます)、胃や食道の静脈瘤など様々な症状を引き起こします。
肝硬変には肝臓がんも発症しやすいため要注意です。
最新の統計では肝臓がんの原因のうち、約30%はMASLDであるとのことです。
肝硬変については別ページで解説しておりますのでそちらもご覧ください。
どんな検査があるの?
- 血液検査
- FIB-4 index
- 腹部超音波検査
- 放射線画像検査(CT、MRI)
- 肝生検(当院での取り扱いはございません)
- 胃カメラ
最も多いパターンが会社検診や人間ドック、またはたまたま行った血液検査で肝臓の数値が高かった場合です。
以下はこの場面を想定した流れで解説します。
①血液検査
脂肪肝を疑うのは肝臓の中でも「AST(GOT)」「ALT(GPT)」「γ-GTP」が高い場合です。
これらは脂肪肝だけではなく他の肝炎や飲酒など様々な原因で上昇します。
たまたま内服した風邪薬などの影響で一時的に高かっただけのこともありますから「AST」「ALT」「γ-GTP」の再検査は必要です。
加えて原発性胆汁性胆管炎、自己免疫性肝炎、甲状腺機能異常など、他の病気でも肝臓の数値が上昇するため血液検査でそちらも同時にチェックします。
②FIB-4 index
血液検査では「AST」、「ALT」、「血小板数」で簡単に計算できる「FIB-4 index」と呼ばれる指数を算出することで、肝硬変にどれだけ近づいているか、病気がどれほど進行しているかを推定することが可能です。
③腹部超音波検査
脂肪肝の診断には腹部超音波検査が非常に簡便かつ有効です。脂肪の沈着した肝臓は正常よりも白く映る、肝臓内の血管が見えにくくなる、肝臓の奥の部分がモヤモヤして見えにくくなるなどの変化が出ます。
また当院の超音波検査機器では、それらを数値化して脂肪肝の判断をする特殊な機能が備わっており、より正確な診断を行うことが可能です。
④放射線画像検査(CT、MRI)
超音波検査では脂肪が沈着しすぎると腫瘍も同時に白く映り、見えにくくなるという問題を抱えていました。
見えづらい場合ではCT、MRIなどでさらに詳細に確認する場合もあります。
加えて、肝硬変にまで進行している場合、食道・胃静脈瘤が合併していないか、肝臓がんが発生してないか、などを調べる必要がありますがこれはCTが得意としている所です。
特に静脈瘤の評価においては正確に血管の状況を把握することで治療方針に大いに役立てることが出来ます。
⑤肝生検(当院での取り扱いはございません)
上記の各種検査結果を総合することで脂肪肝の診断を行います。
どうしても決め手を欠き、かつ確実な診断が求められる場合において、従来は肝生検が行われてきました。
体表からエコーで確認しながら安全な場所を狙って肝臓に針を刺し肝組織を採取します。
一定以上に肝臓に沈着した脂肪組織が確認出来れば確定診断することができます。
ただ、肝生検には大出血などのリスクがあることや、上で述べたような超音波検査機器の進歩によって出番は失われつつあります。
⑥胃カメラ
肝硬変にまで進行した場合、上記のように食道・胃静脈瘤の合併有無を検査する必要があります。
CTでは食道・胃周囲の血管全体の発達網を調べることが出来ますが、胃カメラでは食道や胃の粘膜面の静脈瘤を直接観察することが出来ます。
具体的には静脈瘤が膨隆している範囲、膨隆の程度(始めは直線的、次第に蛇行し、一番悪化した状態では腫瘍のように隆々となる)、色調(赤いほど出血しやすい)などを確認します。
これによって治療の必要性の有無、治療方針を決定します。
治療は?
- 食事・運動療法
- 糖尿病薬
- ビタミンE
- 脂質異常症治療薬
- 降圧剤(ACE阻害薬、ARB)
- 肝硬変に対する治療
- 肝移植
1.食事・運動療法
まずは食事内容。一番はカロリー制限です。
これを継続することで肝臓に沈着した脂肪を減少させることが期待できます。
炭水化物もしくは脂質を制限して下さい。
次に運動です。一日30~60分、週3回程度の運動を継続すると、体重が減らなくとも脂肪肝が改善することが報告されています。
運動の中身としては、有酸素運動でもレジスタンス運動(マシン運動や腕立て伏せ、スクワットなど筋肉に抵抗をかける運動)でも、どちらも効果があることが分かっています。
以上のような食事・運動療法を合わせて行うことによって体重が5%減少すると生活の質が向上し、7%以上減少すると脂肪肝自体が改善することが報告されています。
ただし、、、なんとなくお気づきかもしれませんが実際に達成できた人は5%の体重減少で30%、7%減少が18%、10%減少に至ってはたったの10%だったようです。
達成できないと治療とは言えませんから自分に合った治療方法を選択することも大事と言えます。
2.糖尿病薬
「チアゾリジン誘導体」や「SGLT2阻害薬」と呼ばれる種類の糖尿病薬には脂肪肝の改善効果もあることが分かってきました。
糖尿病も合併した脂肪肝の方には良い治療選択肢となります。
3.ビタミンE
ビタミンEも脂肪肝改善効果を有することが証明されています。
4.脂質異常症治療薬
「スタチン系」と呼ばれコレステロールを下げる系統の薬剤には、肝機能改善と肝臓の線維化改善効果などの可能性があります。
いずれにしましても脂肪肝には多くの方が脂質異常症を合併していますので、そういった場合には試す価値はあると言えるでしょう。
5.降圧剤
「アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬」や「アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)」と呼ばれる降圧剤の一種には肝機能の改善と肝臓の線維化改善効果が期待されています。
実はMASH(代謝関連脂肪肝炎)患者さんのうち、およそ70%もの方は高血圧を合併しています。
このように高血圧を合併した場合にはACE阻害薬やARBを内服することが望ましいでしょう。
6.肝硬変に対する治療
こちらのページをご確認ください。
7.肝移植
肝硬変にまで至り、さらに食道静脈瘤や高度の黄だんなどが出現してくるようだと肝移植の適応になります。
日本においては脳死肝移植は少なく、多くは生体肝移植が行われています。扱っているのはごく限られた医療機関になります。
参考:NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第2版)
日本消化器病学会関東支部第44回教育講演会テキスト
日本消化器病学会 消化器病専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・指導医
日本肝臓学会 肝臓専門医
日本内科学会 総合内科専門医
日本消化管学会 胃腸科専門医
難病指定医
秋田大学出身
月間400件以上の内視鏡検査を行なう。
丁寧でわかりやすい医療の提供を志す。
人間ドックによる予防医療にも注力している。