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膵(すい)がん

どんな病気?

  • 膵臓とはみぞおちの背中側(胃の裏)付近にある臓器で、頭部・体部・尾部に分かれます。
  • 膵臓(すいぞう)には血糖値を下げるホルモン(インスリン)を分泌する、アミラーゼなどの消化酵素を分泌するなどの役割があります。
  • 膵がんは予後の悪い代表的な疾患です。5年生存率(診断されてから5年後に生存している患者数の割合)は8.4%と非常に低い統計結果が出ています。
  • 膵がんと診断された方(罹患者数)は全国に43865人(2019年)、命を落とされた方(死亡者数)は37677人(2020年)おりました。残念なことに年々増え続けています。
  • 罹患者数は40歳を超えたころから増え始め、年を追うごとに増加し90歳代が最大です。

原因は?

直接的な原因というよりは、下記の要素(危険因子)を持っている方は持っていない方と比較して統計上膵がんに罹りやすいことが判っています。
それぞれについて簡単に解説します。

家族性膵がん・膵がん家族歴

統計上、膵がん患者さんの5~10%には第一度近親者(親、兄弟姉妹、子)に膵がんに罹った方がいます
このことを家族性膵癌と呼んでいます。
逆に、自身にとっての第一度近親者が膵がんに罹った場合、自身のリスクは約1.5倍です(つまり自身の親が膵がんに罹った時、自身が将来膵がんに罹る確率は1.5倍になります)。

遺伝子異常

特定の遺伝子異常が膵がんを発症させやすいことが判っています。
現在までに複数種類の遺伝子異常が発見されています

喫煙

喫煙による膵がんリスクは1.7倍程度です。喫煙量が増えるほどリスクは増加し、禁煙すると減少しますが元のリスクに戻るまで20年かかることが報告されています。

飲酒

一日のアルコール摂取が24~50g以上では1.3倍程度の膵がんリスクがあります
*一般的な缶ビール(アルコール度数5%)1本(500ml)で25g換算

糖尿病

糖尿病の膵がんリスクは1.7倍程度です

肥満

肥満(BMI≧30)では膵がんリスク1.4倍程度です
BMI:体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

慢性膵炎

慢性膵炎での膵がんリスクは13~16倍と言われます

膵管内乳頭(すいかんないにゅうとう)粘液性腫瘍(IPMN)

IPMN自体ががん化する場合IPMNとは別に膵がんが発生する場合とがあります。
こちらのページにもう少し詳しく解説しております。

膵のう胞、膵管拡張

CT、MRI、腹部超音波検査(エコー)で偶然膵のう胞が発見される場合があります。
発見された場合、膵のう胞がない方もしくは一般人口と比較して3~22倍の膵がんリスクがあると報告されています。
これには上記のIPMNも多く含まれていると考えられます。
また軽度膵管拡張がある方は約6倍のリスクと言われています

その他

胆石1.7倍、胆のう摘出術1.3倍、O型以外はO型の1.9倍、ピロリ菌1.4倍、B型肝炎1.6~5.7倍、C型肝炎1.5倍など様々な危険因子が指摘されています。

症状は?

膵がんは進行するまでは無症状である事が多いのが怖いところです。
一方で進行すると背部痛や、みぞおちの痛み(膵臓は胃の裏側にあります)が半分以上の方に現れます。
腫瘍が膵管を閉塞することによる急性膵炎、隣接する胆管を閉塞させることで起こる黄だん(皮膚や白目が黄色くなる)・急性胆管炎、さらには隣接する十二指腸を閉塞させて起こる食事の通過障害など、多彩な症状を引き起こします。
他のがんにも共通するような、食欲不振や体重減少などの症状もよく見られます。

どんな検査があるの?

血液検査

膵管の閉塞を反映してアミラーゼリパーゼエラスターゼ1などの膵酵素が20~50%の方で上昇します。
また腫瘍マーカー(がん細胞が分泌する物質)としてCA19-9Span-1Dupan-2などが上昇します。
ただしいずれも2cm以下の小さな膵がんでは、50%前後の患者さんでしか異常値を示しません。
よって早期発見には必ずしも有用ではありません。

腹部超音波検査(エコー)

エコー検査は最も簡便で、放射線検査のようにお身体への影響を心配する必要もなく、外来で簡単に行うことのできる非常に有用な検査です。
膵臓内にできた黒い影として膵がんが描出されます。
また膵管が拡張していることで間接的に診断に結びつくことも多々あります。
全国集計によると、膵がん発見のきっかけとなった画像検査としてエコー検査が一番活躍しており、その割合は40%にも上りました。
膵がん診断のためには欠かせない検査と言えます。

一方で弱点は、高度の肥満患者さんや腸のガスが多い方、食後などでは超音波ビームが届きにくく内臓を描出しにくくなる点です。
加えて、そもそもエコー検査は膵臓全体を描出できないことも多いため、気になる点があれば後述するCTやMRI検査などを組み合わせる必要があります。

CT検査

エコー検査よりもより客観的な、診断に適した画像として膵がんそのもの、さらには肝臓・肺や血管など他の臓器を同時に調べることが可能です
これは進行度(ステージ)を診断するために最も重要な情報になります。
このようにCT検査は非常に有用な検査ですので、膵がんが疑われた場合は必ずと言っていいほど撮影されます。

MRI検査

MRIの優れている点は、膵管だけ切り取って立体的に映し出すことが出来る事です
一般的な膵がんは膵管から発生します。
CTですと上で述べたように周囲臓器も同時に確認しやすいという特徴がありますが、MRIではあえて膵管に注目した画像を作成することで膵管のわずかな変化や閉塞を映し出し、診断を助けてくれます
隣接した胆管への影響(主に進行による閉塞)も同時に評価することが可能です。
欠点は狭い空間に30分ほど横になりその間じっとしている必要があることから、閉所恐怖症の方や認知症などの方は難しい点です。

超音波内視鏡検査(EUS)

腹部エコー検査の弱点である肥満やガスの多い状況を克服したのが超音波内視鏡検査です
胃や十二指腸から直接膵臓を観察することが可能であるため脂肪やガスの影響を取り除き、かつ近くから見ることができます。
もちろん腹部エコ―検査が苦手としていた膵臓全体の観察も可能です。
超音波内視鏡検査は初期段階の小さなものも発見しやすく、がんの範囲、隣接した臓器への浸潤などを観察するのにも適しています。

一番重要とも言える役割は膵がんの組織検査です
従来の膵がん診断は画像検査に頼っていました。
しかしそこには大きな問題があったのです。
実はCTやMRI、腹部エコー検査で膵がんと似たような見え方をする腫瘍が複数あるのです。例として神経内分泌腫瘍、自己免疫性膵炎、慢性膵炎などが挙げられます。
過去にはそれらの疾患が、ある一定の割合で膵がんと判断され、適切な治療を受けられなかった時代がありました。

そこで生まれたのが超音波内視鏡による針生検(EUS-FNAと呼ばれます。胃壁などを介して針を刺し膵臓組織を一部採取し、顕微鏡検査すること)です。
胃がんを胃カメラでの生検で診断するように、膵がんでも腫瘍組織を直接確認することで、より正確な診断をすることが実現されたのです。
現在においてEUS-FNAはなくてはならない検査法になっています。

ERCP

EUS-FNAはある程度以上のサイズがないと物理的に施行困難です。
特に腫瘍が10mm未満の時には診断率が一段と低くなります。
そんな時に有用と言われるのがERCP検査です。

ERCPとは専用内視鏡による直接的な膵管造影のことです。
膵管内に(体外まで伸びる長い)チューブを留置することで簡単に連日の膵液採取、細胞検査を行うことが出来るのです
細胞検査を連日行うことで膵がんの確定診断に至る割合が70~80%程度にまで向上すると言われています。
一方で、検査後の合併症として約7~16%の割合で急性膵炎を発症することが報告されています。
よって必要性については、充分に検討することが重要になります。

治療は?

  • 外科手術
  • 化学療法
  • 放射線療法
  • ステント治療

外科手術

外科手術は根治が期待できる唯一の治療法です
膵頭部のがんには「膵頭十二指腸切除術」、膵体部~尾部のがんには「膵体尾部切除術」が行われます。
総胆管が膵頭部の中を通っていること、十二指腸は膵頭部と隣接していることから膵頭十二指腸切除術では両者(総胆管、十二指腸)も同時に切除することになります。
切除する臓器が多くなる分、合併症のリスクも上がることになります。

化学療法

根治(治癒)を目指すには手術しかないことはすでに述べた通りですが、実際には術後再発率が高いことが非常に大きな課題として残っています。
様々な補助治療が試されてきた中で、手術前・手術後にそれぞれ化学療法(抗がん剤治療)を追加することで治療成績が向上することが分かってきました
そこで現状では手術可能な膵がんの標準治療は、術前化学療法→手術→術後化学療法となっています
この治療の流れにも問題がないわけではありません(術前化学療法中に手術のタイミングを逸してしまうなど)ので、今後の研究結果によっては変わっていくかもしれません。

ここまで手術に絡めた解説でしたがそもそも現状において、膵がんが発見された時には手術が出来ないほど進行していることの方が多い、という事実があります。
この場合には始めから化学療法を検討する事になります。
ただし残念ながら治癒を目指すものではなく、延命と症状緩和が目的になります。
どんどん新しい薬剤が開発されており、様々な研究もおこなわれています。今後に期待が寄せられるところです。

放射線療法

放射線療法も膵がんを根治出来るわけではありません。
あくまでも補助的な治療の位置づけになります。
転移はないけど周囲に拡がりすぎて切除できない膵がん(局所進行切除不能膵がん)、切除できるかどうかギリギリの膵がん(切除可能境界膵がん)などに対しては化学療法と同時に補助的な放射線照射が行われることがあります
他、骨転移などによる疼痛緩和目的に行われる場合もあります。

ステント治療

症状で解説した通り、膵がんが進行し隣接する総胆管を侵すと、胆汁の流れが障害され黄だんや急性胆管炎を併発することをよく経験します。
同様に、十二指腸が閉塞し食事が通らなくなることもあります。
それらの場合、内視鏡を用いてそれぞれ総胆管、十二指腸に「ステント」を留置するのです。ステントとは流れを確保するための筒です。
総胆管には細いプラスチック製、または太い金属製が用いられ、十二指腸には金属製が使用されます。

終わりに

膵がん診療において最も重要なこと、それは早期発見であることに間違いないと私たちは考えます。
当院では可能な限り早い段階で膵がんを発見することを目指して診療を行います。
検査結果で心配なところがあるご家族が膵がんに罹られた、など何でも良いですから気になることがあれば当院までご相談ください。

参考

膵癌診療ガイドライン2022年版
がん情報サービス ganjoho.jp

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